And The Rolling Thunder Logbook
コンサートの観衆にはひとつの顔がある。特別の作用を受けたように見える顔。激しい目つき。研究室の実験のように、遠くにあるものの作用を受けた目。目で見て耳で聞いているステージ上のできごとは、見えない現象を鏡に映しだしたものでしかないように思える。
ディランはそれをやっている。この分野では、彼にかなう者はいない。正確には、それは崇拝ではない。それは啓示だ。ウィルト・チェンバレンが弁当を詰めるようにバスケットボールをシュートするのとおなじだ。可能の領域の外にあるように思えるのに、彼はそれを実際にやっている。
ディランの手 白くて、しわだらけで、そして折れるところが二ヵ所ある指。長い爪が、アレンのハーモニウムのそばで触手動物のようにこまかく動く。さまざまなことをくぐりぬけてきた乳白色の手は、彼の音楽や彼がいままでどこにいたのかを、彼の顔より雄弁に語る。とても古くて、悪魔のようで、恐ろしい感じさえする、人間のものではないような手。
「死はそれについて知らない。生がそれを知っている。生きている者が死ぬことを考える。」
ケルアック『メキシコ・シティ・ブルース』より
今夜、ディランは42番ストリートで買ったゴム製のボブ・ディランの仮面をつけてステージに出る。会場の客はあっけにとられる「また事故にあったのか? 整形手術をしたのか?」それともとんでもない悪ふざけか? きっとにせものだ! 声は同じように聞こえる。にせものだとしたら、とても真似がうまい。ディランは3、4曲歌いハーモニカに手をのばす。仮面をつけたままハーモニカを吹こうとするが吹けず、仮面をとって(ステージの)後部に投げつける。ほんものだ! 見事な腕前の整形手術! 会場の客はあっけにとられ、これがほんもののディランなのかどうかを考えつづけている。
バックステージの楽屋は体育館のロッカールームの中にある。というより、ロッカールームそのものが楽屋になっている。アーミーグリーンのロッカーや地元のボクサーがパンツをすりつけた汗のしみたベンチを背景に、あざやかな黄色や赤のバラ、高級チョコレート、ナッツでいっぱいのテーブルを見るのは、とてもふしぎな感じがする。
スカーレット・リヴェラ 神秘的な翳りのあるフィドルをひく貴婦人。彼女とは二、三話しか話したことがない。話がしたくなかったのではなく、話がつづかなかったのだ。蛇の化粧。そしてしっかりしたリズムとメロディーを失わずに、たてにおおきくからだを揺すって演奏する姿はステージでよく目立つ。
ジョニ・ミッチェル ただステージに出て行く人、ギターひとつとベレー帽とことばのコラージュの歴史だけを携えて、ステージに出て行く人がいる。どのときも、場内は山火事のように熱い煙をあげる。ジョニ・ミッチェルはステージに立ち、すでにチューニングしてあるギターをあわせるふりをして、みんなが静かになるのを待つ。
Bob Dylan/Rolling Thunder Review October 31, 1975 by BOBFAN
0. When I Paint My Masterpiece !
* It Ain't Me, Babe (missing from circulating tape)
* A Hard Rain's A-Gonna Fall (missing from circulating tape)
1. Romance In Durango !
2. Isis !
* The Times They Are A-Changin' [Dylan/Baez] (missing from circulating tape)
3. Never Let Me Go [Dylan/Baez] !
4. Mama, You Been On My Mind [Dylan/Baez] !
* I Shall Be Released [Dylan/Baez] (missing from circulating tape)
5. Diamonds And Rust (Joan Baez) !
* Mary Hamilton (Joan Baez) (missing from circulating tape)
* Love Song To A Stranger (Joan Baez) (missing from circulating tape)
6. Oh Happy Day (Joan Baez)
7. Please Come To Boston (Joan Baez) (one-minute fragment)
8. Chestnut Mare (Roger McGuinn)
9. The Night They Drove Old Dixie Down (Joan Baez)
10. I Don't Believe You !
11. Hurricane !
12. Oh Sister !
13. One More Cup Of Coffee !
14. Sara !
15. Just Like A Woman
16. This Land Is Your Land [Revue]
ツアーの写真を独占的に撮っているケンは、六台のモータードライヴつきのカメラを黒い重りのように首にぶらさげている。彼がボタンを押すだけで、カメラはトンプスン機関銃のように連射を開始する。八年間もこのチャンスを持っていた、と彼はいう。
ディランは自分自身を発明した。彼は何もないところから自分をつくりあげた。自分のまわりにあったもの、そして自分のなかにあったものから、自分をつくった。たいせつなのは、彼がどういう人間かを知ることではなく、そのままの彼を受けいれることだ。どちらにしたって彼はきみをとりこにする。
「今夜ここに来ないかといわれたとき、このボブ・ディランという人物はどういうやつなんだろうと考えた。きょうここに来て、こんなに多くの人が金を払って集まっているのを見て、ボブ・ディランはたいしたやつにちがいないと思った。この小屋を満員に出来るのはわたしだけだと思っていた。女の子たちも今夜はボブ・ディランをみることだけを目的に来たのかい?」
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