ハロー、ボビー


スコット・リット(Scott Litt)が7年前、カリフォルニアのヴェニスの自宅の裏に、レコーディングスタジオを建てたとき、彼はボブ・ディランを念頭に置いてスタジオを建てた


そのスタジオにディランがハモンドオルガンと共にそこに座っている姿を心に描いた。傍らにはベースとドラムスだけがある。その曲は、バンジョーとトランペットをフィーチャーしたアレンジかもしれない。「ルイ・アームストロングのハロー・ドーリーサウンドをディランからいつもイメージしている」リットが言った。「音楽的に超アメリカンだ」


ニューヨーク出身、58歳のリットは、どう見ても熱狂的なディランファンには見えない。彼はR.E.M.、ニルヴァーナ、リプレイスメンツなどをプロデュースし、キンクスやスートンズと仕事をしたが、晩年のディランにハマッたのは2001年のLove and Theftを聞いてからだった。「それは私にとってのハックルベリー・フィンだった」リットが言った。

ここ数年ディランはジャック・フロストの名前でセルフ・プロデュースを行ってきたが、しばしばセカンド・プロデューサーとしてレコーディング・エンジニアを兼任出来る人物を登用してきた。リットは、去年の冬、ディランの代理人に招待されてライブの前にディランと合った。「ボブのトレーラーで会った。ボブとボブのバンドがそこに居た。彼らはリハーサルでチャック・ウィリスのIt's Too Lateを演奏していた。私は黙ってそこに座っていた」リットはアルバムテンペストのエンジニアになるべく書類にサインをした。




悲しいことにディランは、リットのスタジオは使わずサンタモニカにあるジャクソン・ブラウンのスタジオを使用した。そしてリットのハロー・ドーリのアイデアは全然ダメだった。ディランはやってきて'Heh heh heh. Hello, Dolly'と言った。リットがテンペストにした大きな貢献の一つは、彼の1本2万5000ドルもする高価な古いノイマンのマイクをペアで持ってきた事だろう。「無指向性」のそのマイクを部屋の中央に置きミュージシャン達が演奏しているのと同時に録音する、そしてプレイバックするとわかる。このマイクが型破りだということが。古いやり方だが、そのマイクが拾った物をディランは明らかに気に入っていた。「そのノイマンは音風景を作る、それは彼のような人に合っている」リットが言った。ディランの声が立っていた、リットはそれを見逃さなかった。その効果がリットのテクニックによって高められている事にリスナーも異論は無いだろう。

ディランは通常、レコーディング中の曲の一つを選んでラフミックスで聞いていた。大きなラジカセでディランが聞くときもあったので、そんな時はリットが用意をした。「でかいラジカセを探し出すのは難しい!」リットが言う「セッションが終わるとボブがそれを持って行った。私は記念にそのラジカセを貰おうと思った」レコーディングが終了した後リットはメディアがリリースの報道をするまでの数ヶ月間そのレコードを聴かなかった。リットは20年以上前に一度ディランと合っていた。リットはリプレイスメンツのアルバムのプロデュース、そしてディランはその近くでレコーディングをしていた。そしてそれはその瞬間起こった。リプレイスメンツのリーダー、ポール・ウェスターバーグがディランのパロディー…Like a Rolling Pinと呼んでいた曲…を始めようとしたときだった。ウェスターバーグはコントロール・ルームにディランが立っていることに気がついていなかった。そしてリットは残念ながらウェスターバーグを止めなかった。曲が終わるとフード付きスウェットを着たディランが「お前ら、まだリハーサルやるのか」と言って出て行った。




「ボブと仕事をした時、それを持ってこなかった」リットは笑いながら言った。リットのヴェニスのスタジオには、本当に沢山のレコーディング機材がある、例えば古いニーヴのように、でもそれらはプロツールスの世界には時代遅れのものだった。この7年間に彼のスタジオを訪れたのはたった一人のアーティストだけだった。「やめたほうがいいか」彼は言った。


最近リットはヴェニスのBoys and Girls Clubでその時間を過ごしている、そこには別のスタジオあり、子供達に音楽ビジネスについて教えている。「沢山のアフリカ系アメリカ人が、私のようなユダヤ人エンジニアと働いているのを見てきた」リットは言う「私たちは子供を再生することは出来ない」。彼の一番の生徒オスカー・ダンカン(Oscar Duncan)は、16際の時にリットとスタジオに入りそれから23歳まで一緒だった。ダンカンは反ギャングの運動をしていた、その彼がこの6月、車から撃たれて死亡した。スティービー・ワンダーが彼の葬式で歌った。「私には子供がいないが、この子は本当に近くに感じていた」


リボンマイクの使用例としてナット・キング・コールを聞かせた後リッターは、Hello, Dolly,をニーヴを通して良い感じで鳴らした。"You still blown', you still crowin', you still goin' strong," ルイ・アームストロングがうなってる間、彼は足でリズムをとり頭を揺らしていた。

そして、トランペットが入ってきた時、彼は叫んだ「やっぱり、そう思わないかい?」





by Nick Paumgarten New Yorker October 1, 2012

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ディランのレコーディングと言えば昔から、オフのエアー(マイク)てのがエンジニアの口から出るけど…でもディランを録るなら「ヴィンテージ機材で」ってまぁその気持ちはわかる。最近はステューダーやらアンペックスのシミュレータもあるみたいだけど。写真なんかでもフィルム・シミュレータとかあるなベルビアとか…で、クリス・ショー(Chris Shaw)「クイック・ミックス」て言われたら「ラフ・ミックス」だと思うよな(笑)。











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