現代音楽とボブ・ディラン
アカデミー賞、グラミー賞、ピューリッツァー賞に輝くアメリカの作曲家ジョン・コリリアーノ。2000年にディランの詩に新たに曲を付けて発表した。
ジョン・コリリアーノ:ソプラノ歌手シルヴィア・マクネアーにカーネギーホールでの公演で歌う曲を依頼された時、彼女の希望はただ一つ「アメリカのテキスト」を使うことだった。
私は今までスティーブン・スペンダー、リチャード・ウィルバー、ディラン・トマス、ウィリアム・M・ホフマンの4詩人の曲しか書いた事が無かった。新たにテキストを作ることもできるが、いずれにせよ少々困っていた。
そこで、かねてからその評判を聞いていたボブ・ディランの歌詞を使うことを思いついた。だが彼の音楽や詩をほとんど知らなかったので急いで彼の詩集を買い曲に使用する詩を選んだ。
そして、ディランのマネージャ ジェフ・ローゼンに連絡を取り、彼の詩を使って作曲する許可を求めた。ディランは私に許可を与え、私は仕事に取りかかった。
ディランがこの話を最初に聞いたとき「どうやるんだ、終わってるな」と言ったとジェフ・ローゼン連絡を通じて聞いた。
ディランが何故このプロジェクトを許可したのはかわからない。きちんとエージェントを通してファックスで質問したが、ディランからもジェフ・ローゼンからも返事は無かった。
2000年3月15日、カーネギーホールで演奏された7つの曲はソプラノとピアノだけの構成だったが、その後2003年に「増幅されたソプラノ(amplified soprano)」オーケストラ・ヴァージョンを創った。2008年にはCDがリリースされ、翌、2009にグラミー賞(Best Classical Contemporary Composition)を受賞する。
以下、2011年のインタビューから
20代の若者や学生のリスナーに対してディランの事を聞きましたか? もっと若い観衆はディランが誰だか知っています?
20歳の人達もみんなボブ・ディランを知っていると思います。昨年はグラミーで演奏しました、それにいつも新しい事をやっている。60年代と同じくらいアクティヴなアーティストです。
あなたの作品について、ディラン自身から何か聞きましたか?
いえ、何の言葉もありません。作品が出来てそのCDを彼に送りました。しかしいくつかの理由で私は彼からの感想をは期待していませんでした。彼のようなスーパースターにとって、おそらく取るに足らない事でしょう。彼にとってクラシックは、エリートの音楽でそんなものに答えないだろうし、何か感想を言っても多分「彼の作曲は全部間違っている! そうじゃないだろう!」みたいに感じてるんじゃないでしょうか。
そうでしょうか。彼から感想をもらえたら、とても興味深い事だ思います。あなたはもしかしてディラン或いは、フォークミュージックなどほとんど聞かずにきたんじゃないと思って最初の質問をしたのですが…
そのとおりです。基本的に3つか4つのコードがあって、たとえどんな歌詞があっても、メロディが同じヴァースにあってまたヴァースの繰り返し、そんなフォークミュージックには興味をもてませんでした。ビートルズがしたようなより革新的な事に興味がありました。もしコーヒーハウスでボブ・ディランが歌っているのを見ても、友人とそのまま会話を続けるでしょう。「あれは何?」なんてことは言いません。興味が持てないんです。彼の言葉は素晴らしいと思うけれど、彼の音楽を聴いたとき、フォークミュージックのやり方では、フィットしていないように感じるところもありました。ムードや言葉全体が変化しても一つのヴァースしかない。一方でビートルズを聴いたとき、彼らにはオーケストラがあり、ハーモニーがあり、そしてフレージング…それらは並外れたものでした。私はそちらの方に強く惹かれました。
ボブ・ディラン歌詞を使ったあなたの作品「Mr. Tambourine Man」の話をしましょう。どのように創りあげたのですか? あなたは非常にまとまった連作歌曲を作曲しました。それは文字通り一つの曲が次の曲に続くというものですが、このことについてもう少し話していただけますか?
まず最初に本を手に入れて、彼の歌詞を全部読み通しました。何百もの歌詞を読んでその中から歌詞を選び出し、そして自分には適当でないもの排除しました。とても良い歌詞ですが自分には合いません。一つの事がしたかった:ボブ・ディランが60年代にした最も重要な事は、政治的意識を高めた事だと思う…ボブ・ディランの60年代は現在の私達と似ていないこともない。
そうですね。特に"Masters of War"でそれを感じました。信じられないほどに力強い作曲をそれに感じました。その上、とてもタムリーです。
非常にタムリーです。60年代のようにしたかった。それに最後はベストを尽くすべく、祝福のようなもので終わりたかったのです。それで私は前奏曲と後奏曲を入れました。前奏曲は"Mr. Tambourine Man"です。ミスター・タンバリンマンの魅惑に誘惑される話で、途方も無く60年代のサイケデリックカラーな世界のもの。最後の"Forever Young"は、何歳であろうと決して歳をとらないというものです。言い換えるなら、いつも若いままでいる。例えばアーロン・コープランドのような人が"Forever Young"でしょう。彼は80歳かもしれませんが、若い頃と同じように好奇心を持ち、若い頃と同じように生きたいと思っていました。そんな感じで、誰もがとても良く知っている詩で始めました。その何も起こらない歌…
"Clothes Line"の事を話していますね?
そうです。これは基本的にやらな過ぎず、知りすぎたがらない家族の事ですね。何か大変な事が起こり母親が「副大統領がおかしくなってる!」と言う「それは大変だ…」しかし、ある意味、それは我々には関係ないことだし、別に知りたくも無い。そして父親が「服を取り込んで、部屋に入っておいで…」と言う。そして、とても重要な最後の1行「私は服を取り込んだ、そして私達は全てのドアを閉めた」このドアを閉めるというアイデア…外界を気にしない…というのはとても重要です。世界には大きな問題あるのだと気づく前に、ある種の無垢で本質的な詩について考えるべきだと感じました。
"Blowin'in the Wind"は、質問をしているので、次なるロジカル・ソングに見えます。この曲は、しきりに(質問)していますが、あなたはそれを無視できますか? どうやって無視します? 「The answer is どうやって解決したらいいか わからない」ですが、あなたはどうやってこれを無視しますか。注意を払えばこのことが世の中で、しつこいほど繰り返されています。
"Masters of War"は、兵器についての総認識です。人々は金のために銃と弾丸を作っている。世界中の政府は他の政府を傷つけるために戦っているという種類の世界。私が今までに読んだ詩の中で最も力強いものだと思います。それでその印象と同じように力強い作曲を試みました。なぜならこの詩は傑作だと思ったからです。
つまり、私にとってはこれら全ては「詩」です。「歌詞」ではなく「詩」として曲にしています。
"All Along the Watchtower"… 国を作ろうとすると、反乱軍がやって来て全てをひっくり返し何か新しいものに変える。どうやらジョーカーと泥棒がいるようだ。二人の別々の個人。私の歌では違う種類の声をしているどろぼうは、ずるくて口が達者です。ジョーカーは神経症で狂っている。ジョーカーは彼に対してある種の狂気を持っている。二人は相棒で成功したがっていた。そして、塔の上には、この事に気づいていない人達がいました。人々は地平線を見ていたが、その下で起こっている革命とその騒動には気づかなかった。私は、オリジナル曲のこのヴァースを聞いて非常に驚きました。
その最後の1行のあなたの作曲はとても面白い。その1行、「そしてまた風がうなり始めた…」
非常に鋭いインタラプション(中断)です。泥棒とジョーカーはビルの横で見上げている人々に警告を発しながら言いました「俺たちはここにいる。無視できない」それは、それぞれ3つの異なった作曲をしました。1つはジョーカーの狂気、もう1つは泥棒のある種、にじみ出るような人格。そして3つ目、このオーケストレイションを聞いたら、とても平穏な感じでジョーカーと泥棒が何かゲームをする準備でもしているような…。その後、それが過ぎ去ったと思ったら、再びポップアップする!。
そして最後の曲"Chimes of Freedom"に続きます。そう、全ての不正は…正される。良き試練の歌です。自由の鐘は、悪が正されるこの時に、勝利の音を響かせる。そして全てがそうなるように。一種の賛歌です。
その後、大きなクライマックスに達し、全ては静まり、最終章を迎える"Forever Young"。いつまでも若さを保つために、これらのことを忘れないために…
▼Interview with John Corigliano
▼Singing Dylan's Words to a Different Tune (NYT)
▼CORIGLIANO, J.: Mr. Tambourine Man / 3 Hallucinations [Plitmann, Buffalo Philharmonic, Falletta] (Naxos)
▼コリリアーノ:ミスター・タンブリンマン(ボブ・ディランによる7つの詩)/3つの幻覚 [バッファロー・フィル/ファレッタ] (Naxos.jp)
Prelude: Mr. Tambourine Man
Clothes Line
Blowin' in the Wind
Masters of War
All Along The Watchtower
Chimes of Freedom
Postlude: Forever Young
Bob Dylan: American Poet (グリル・マーカスとの対談)
ちなみに、わたくしは、その昔、音楽工学とかいうものを勉強していたのだが、講師の大先生がまず最初におしえたのは「テープコンポジション」だった。まぁミュージックコンクレートの代表的な手法でテレコが楽器、ケーブルも楽器、シュトックハウゼン=神…みたいな世界。その後順調に発信器…つまり電子音楽…つまりミュージックシンセサイザーの世界に誘われ、ワルター・カーロス=神…みたいな(笑)。ああ、勿論、ケージ=神だけどミニマル=バカとか(笑)。こうしたものも現代音楽として語られる事がよくある。まぁ広義においてはそうかもしれないが、もう少し狭めるら「エレクトロアコースティック音楽」の方が多分、正確だと思う。一方でコリリアーノのような音楽もやはり現代音楽と呼ばれるが、こちらは「コンテンポラリー・クラシカル音楽」… … うーんこんな事を書き始めたらキリがない… でも、テープコンポジションに現代音楽、後々、仕事でもの凄く役にたったのだった。一番上のどっかの学生さん、とても気持ちよさそーなので…。
シュトックハウゼンから山海塾まで…宝庫
▼UbuWeb (Sound)
※イーノのオブスキュア、全アルバムがきける、素晴らしい。
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